研究内容

反強磁性テラヘルツ・マグノニクス

従来のMOディスクや、次世代の光磁気ハイブリッド記録(TAMR)などの光磁気記録では,光は磁気媒体の温度を一時的に上昇させる熱源として利用されています.この方式では熱冷却速度や熱拡散のため,記録速度や密度に限界があります.またスピンを直接制御するのは外部磁場であり,光は照射加熱により磁気媒体の保磁力を下げることで、低磁場でもスピン制御が可能になるように補助する役割に留まっています. そこで本研究室では,外部磁場なしに(または磁場の助けを借りつつも)光が主役になってスピン制御する手法を研究します。スピン操作にとって「最適」になるように光パルスを時間的に波形整形します。 また、磁気記録媒体は主に強磁性体であり、スピンの速度は歳差運動の周波数に比例するため、GHzオーダーに限られてしまいます。そこで、反強磁性体が交換相互作用により、全ての磁性体中で最速のTHzオーダーの歳差運動周波数を有することに着目しました。 「時間的に波形整形された光パルス」+「反強磁性体」の組合せにより、究極的に高速で、自由なスピン制御をめざします。

光マグノニクス

電子の電荷自由度を利用する現代エレクトロニクスでは、小型化・集積化に伴うジュール熱の増大が最大の問題の一つとなっています。一方、電子のスピン自由度を利用する技術(スピントロニクス)が盛んに研究されていますが、金属中のスピン流は自由電子が移動するため、やはりジュール熱を完全に排除することができません。スピン流の一種としてのスピン波は、絶縁体中でも伝播することができ発熱の問題がないことから、マグノニクスという新しい分野でさかんに研究され始めています。その重要性にも関わらず、ごく近年に到るまで国内での知名度は低いのが現状でした。また、スピン波の生成、制御、検出には、アンテナを用いた電磁誘導か、スピン偏極電流を用いたスピン・トランスファートルクを用いる方法しかなく、微細加工が必要なことから自由度が限られていました。

そこで円偏光パルスを用いて逆ファラデー効果によって非熱的にスピン波を生成する全く新しい手法を考案しました。また、試料表面での光スポット形状を変えることでスピン波の伝播方向を制御する手法を提案し、「光マグノニクス」の端緒としてきました。今後は、フェムト秒レーザーを自在に駆使して、「光マグノニクス」という新しい分野を切り拓いていき、ゆくゆくは超高速な光磁気スイッチング素子の実現をめざします。

光スピントロニクス

電子の電荷とスピンの両自由度を利用する新たなエレクトロニクスをスピントロニクスと呼び、近年著しく発展してきました。スピントロニクスでは、電流や熱流から電子のスピン角運動量の流れであるスピン流を生み出す技術が盛んに研究されています。一方で、光を用いてもスピン流が生成可能だと知られており、本研究室ではこの光照射により生じるスピン流やスピン偏極状態に関して研究を行っています。さらに、スピン流やスピン偏極状態は磁化方向制御に応用できるため、光照射により生じるスピン流やスピン偏極状態を活用し、光単体で超高速駆動可能な磁気デバイスの創成も目指しています。

光・カイラル・フォノニクス

カイラリティとは、自然界に内在する非対称性の一形態であり、あらゆるレベルで観察され、さまざまな研究分野で注目されています。本研究室では、3次元カイラル物質中で回転しながら伝播するカイラルフォノンを、円偏光ラマン散乱と第一原理計算を用いて研究しています。この研究は、伝播するカイラルフォノンを介して、光子から電子スピンへの角運動量伝達に関する新しい方法の開発に貢献することが期待されています。